platonic animalメイン

涼子日記(NO.1)

2000.11.19

初めて会った日の事を思い出してた。

あの時、ああ言ってくれてなかったら、

今もまだメールのやり取りしかしてなかったかもしれない。

急に仕事がキャンセルになって、

でもまだそれを誰にも言ってなくて。

忘れないな、あの時の私自身。

ぽっかり空いた時間がもったいなくて、

真っ先に浮かんだのはheartzさんの事だった。

「会っちゃおうかな・・・。」

メールで知らせようとパソコンを立ち上げても、

やっぱりまだ迷ってて、

宛先だけ入れた白紙のメールの画面を前にして、

どれだけ頬杖ついて考えてたか・・・。

結局迷った気持ちのそのままを書いて送信して、

また迷ってて・・・。

「この間みたいにうまくいかなければいいな。でも会いたいな。

でも・・・

でも・・・・・・。」

その繰り返し。

その前の週仕事で都内に出るからと、

賭けみたいな気持ちでメールを送って、

すれ違いで会えなかった。

初めてメールを送ってから、1ヶ月かかって会うところにまでいったけど、

いざとなったら怖気づいてた。

私がそうなる事はお見通しだったかもしれないと、後で思った。

真夜中になって返事が届いて、

忘れられない、ひとこと。短いメール。

「黙って俺について来い!」

それで私の気持ちも固まったんだった。


仕事に行く振りで出たから、ほんとはもっと女らしい格好で会いたかったなと、

ちょっと憂鬱だった。

どんな人なのか声だけでは想像できない。

約束の時間より早く着いて、

駅の周りをブラブラしてたら思いついてちょっと試してみた。

どのくらいの確率で「抱かれてもOKな男」とすれ違うか。

「この人はOK。」「この人は嫌。」

確率は半々だった。

そんな余計な事をしたおかげで、ますます怖くなってしまった。

「今なら逃げ出せる。」

でもどんな顔の人でも関係なかった。

私の話しをちゃんと聞いてくれて、

時間をかけて私を理解してくれようとしてくれた人なんだから、

会わずに帰るわけにはいかなかった。

逃げ回ってばかりの毎日が嫌で選んだ選択肢だった。

ここで逃げ出すわけにはいかないと思った。


携帯が鳴ってもう改札の前にいると言われた。

待たされたらまた怖くなって帰ってたかもしれなかったし、

それで覚悟も決まった。

でもその前にどんな人なのか見てみたかったから、

柱の陰に隠れて携帯を鳴らしてみた。

今電話を耳に持っていった人がheartzさんだ。

探偵か刑事になった気分だった。

「でも人が多すぎる、鳴らしてるけど出ない、いるって言ったのに。

どこだろう、あの人!違った。どこかで私を見てるのかもしれない。

携帯を耳に当ててる女を逆に向こうが探してるのかもしれない。」

思わずまた柱の陰に隠れて、携帯を耳からはずした。

誰かを探してるような人は見当たらない。

携帯もずっと鳴らしてるのに出ない。

パニックだった。

この中にいるはずなのに、いったいどの人なんだろう。

どこから私を見てるんだろう。もう嫌だ。帰ろう。

そう思った瞬間携帯が鳴った。

「ベージュっぽいズボンはいてるんやろ?ああ、わかった・・・。」

隣の柱に立ってた人と目が合った。

さっきからこんな人だったらいいな、まさかな。そう思ってた人がこっちへ向かってきた。

heartzさんだった。


あの駅で初めて会った時の事ははっきり覚えてるし、忘れないと思う。

携帯の番号は会う前の日に変わって、新しい番号を聞いてたのに、

焦っていたから前の番号にかけてただけの事だった。

この時の私の大騒ぎは言う機会を逃して話してなかった。

柱に寄りかかってたheartzさんは、人ごみの中で目立ってた。

そこだけ空気が違って見えた。

「誰と待ち合わせなんだろう、この人は。」

heartzさんを探しながらheartzさんを見てたんだ。私は。

くじ運の悪い私が初めて当てた大当たりだった。

日記を書けと言われた時、この事を一番最初に書くとすぐに決めた。


2000.11.20

possessiveness

『独占欲』を辞書で引いたらこう書いてあった。

この欲求を抑えるのは容易じゃない・・・。

私がheartzさんを知ったのは、別の人のHPからだった。

そこはSMのサイトだったけれど、その人にメールを送る気は起きなかった。

たくさんの女性の名前がずらっと並んでいたし、

メールの内容を読んだらとてもじゃないけど私には、この人達のようにはできないと思った。

その片隅のページにSの人の何人かのコメントがあって、

一番最後に書かれていたのがheartzさんだった。

最初から他の女性の影があったらメールを送る事はなかったと思う。

私だけのはずはないとは思っても、実際に見るのと見ないのでは大違いだ。

最初にメールを送ってから何回かのやり取りの後、

heartzさんはHPのアドレスを教えてくれた。

この時が最初のショック。

正直言って「やめよう。」と思った。

わかってたけど目の当たりにするのは辛かった。

こういう時「じゃあ、私が一番になろう。」とは考えない。

自分で自信がある事で人に負けるのは嫌いだけど、

そうじゃない事では競争心は起きない。

負けず嫌いではあっても勝てない勝負はしない。

SMどころかSEXに関してまったく自信がないので、

これはほんとにショックだった。

あの時逃げ出さなかったのは今でも不思議でしょうがない。


それ以来このHPを見るのは毎日の日課になっているけれど、

更新履歴を見るのは未だにドキドキする。

私じゃない名前を見つける度、落ち込んで、泣きそうになる。

辛くなって、こんな思いをするくらいならやめてしまおうかと迷う。

嫉妬するのは醜いのか当然の感情なのか。

「私だけのheartzさんでいて欲しい。」

そう思う自分は愚かなのか普通なのか。

その間に挟まって自問自答を繰り返す。


でも私を独り占めする事もできないのだと思った。

今の私は誰かにどんなに愛されても、独占する事はできない。

例えば(絶対あり得ないのだけど)heartzさんが私を帰したくないと言ったとしても、

私は思い切り困って、それでも帰ってくるのだ。

毎日毎日繰り返し言われたら、怖くなって消えてしまうだろう。

この先私がheartzさんの創り上げた完璧な女になれたとしても、

私を独占する事はできないのだ。

としたら、辛いのは私ではない。

辛いのは女性ではなくて男性の方かもしれない。


だとしたら私ができる事は「今」を信じる事なのかもしれない。

私の曖昧で不明瞭な欲求を理解して、応じてくれている優しさに感謝して、

早くheartzさんが喜んでくれるような女に成長しよう。

その事だけ考えて他の余計な事は考えない。

・・・・と、そう考えられたら苦労はしない。(笑)

やっぱり駄目だ!と電話してしまう。

heartzさんは嘘はつかない。「お前だけだ。」などと言って誤魔化したりしない。

私の方にしても、そう言われたら言われたで「そんなの嘘だ。」

と思ってまた落ち込むに決まっているからそれでいいんだと思う。

結局独占欲というものはあったらしんどくて、なければつまらなくて、

だから自分でなんとかするしかないという厄介な代物なんだと思う。

まだまだ修行が足りない・・・。


2000.11.26

病院からの帰り道、銀杏並木を通ってきた。

私の実家にも銀杏の木があって、秋になって色づくと晴れた日はその黄色が目に眩しかった。

四季の中で秋は自分が生まれた季節ということもあって、好きな季節だ。

だいぶ昔だが、紅葉が真っ盛りの日光のいろは坂を訪れたことがあった。

(実はそういう仕事をしていたので、日光へは実に何10回と行っている。)

紅葉の時期というのは以外に短い。1週間ずれただけで、本当に美しい時は逃してしまう。

その日は少し天気が悪く、宇都宮に入っても回復していなかったので、半ば諦めていた。

日光の山々に濃い霧がかかっているのが下からもはっきり見えたからだ。

いろは坂のカーブは乗用車では実はそれほどきつくも感じない。普通に運転できる人なら、

怖がらなくても上っていける。

それでも大き目のカーブだとほぼ180度に近い角度で曲がるので、景色がくるくる変わる。

上り始めると一層霧は濃くなっていき、景色はほとんど見えなかった。

それが途中にあるパーキングを過ぎた辺りから急に霧が無くなりだし、もうひとつカーブを

曲って景色が変わった途端、目の前に燃えるような紅葉に彩られた日光の山が現れた。

それは一瞬言葉を失うほどの迫力で、一緒に乗っていた外人さん達は一斉に声を上げた。

あれほどの紅葉はそれ以来お目にかかっていない。

秋になって紅葉が始まった聞くと、またあの時のような感動を味わえないものかと思い、

行ってみたくなる衝動に駆られるが、少し考えて実行はしない。

忘れられないほど感動する場面と言うのは、それ以上のものを意図的に見ようと思ったところで

見れた試しが無いからだ。

そして2度目の色褪せた記憶に新しく塗り替えられてインプットされてしまう。

それは恋愛に関しても同じ事が言えるだろうし、それで失敗を重ねてきたから、

そう考えるようになったのかもしれない。

とは言え、別れる時は綺麗な別れ方なんてできないだろうから、仕方がないのかもしれない。

実際別れ方が悪かった人は、良かった時の思い出はほとんど無くなってしまっている。

かと言っていい思い出を残すためにいい別れ方をするわけではないから、やっぱり仕方がない事なんだろうな。

出会った時に別れる時の事を想像する人はいない。

だいいち永遠に終る事は無いと、思っていなければ愛し合う意味が無い。

けれどheartzさんと私の関係の場合は少し違う気がする。

常に終わりの時を意識している気がする。非現実的な関係だから、突然消えて無くなってもそこだけ切り取って、

また元の生活に自然に馴染んでいける気がする。

そんな儚いつながりのようで、すでに私は精神的にかなり依存し始めている。これ以上心を開け放したら、

2度と戻れなくなるのではないかという不安が募る。

そもそも心を解放する手段として決めたのだから、それでいいはずなのに、

先の事を思ってはまだ悪あがきを続けている。

このままheratzさんに頼りきって、突然私の前から消えてしまった時、

私はどうやってその空いた大きな穴を埋めるのだろう。

何が代わりになるだろう。

でも私はまだ歩き始めたばかりだし、まだまだそんな事で悩んでいる所まで来ていない。

今はheartzさんが私に忘れられないほどの感動を与えてくれる人だと信じて、ついていくだけだ。


2000.11.29

heartzさんに会う前は忙しい。今日のために下着は買ったし、服も買った。

肌の手入れも今週に入って普段とは違うスペシャルメニュー(笑)にしてあったし、

髪だって普段しないトリートメントをした。

heartzさんは「こうして来い。」「ああして来い。」とは言った事がない。

でもとてもじゃないけど普段どおりでは会えないし、これが女心と言うものだ。

(と言ってもほとんど変わりはないのだけど、要は気持ちの問題だ。)

不思議な事に、いつもは決まらない化粧がheartzさんに会う日は決まったりする。

顔自体が違うからだよ。と友人は言っていた。そうかもしれないと思う。

普段の顔から、女の顔に変わっているのかもしれない。

私は人を待たせるのが嫌いなので、

待ち合わせの時間より遅くても10分前には着くように計算して出る。

待たされるのは嫌いじゃない。待たされたら5分で帰ると言ってた友人もいたが、

私は1時間位でも待ってしまう。帰ったのと入れ違いに来たら、途中で何かあって、

それでも向かっていたら、待ち合わせの場所を聞き間違えたのかも・・・。

あれこれ考えてる内に1時間位すぐ経ってしまう。でもheartzさんは時間に正確だ。

待っても5分くらいだ。しかも待ち合わせの時間より早く着いてるのに、だ。

律儀なのか真面目なのか。「そんなの常識や。」と言うだろうけど。

会う前は話したい事が常に頭に浮かんでくるのだけれど、いざ目の前にすると全く浮ばない。

緊張しているせいもあるけれど、何を話していいかわからない。

でも聞けば何でも答えてくれるし、話せば笑って聞いていてくれる。

わかってはいるのだけれど、言葉が出てこない。かといって沈黙が気詰まりなわけでもない。

多分一緒にいる事だけで楽しくて嬉しいからだと思う。

「何食べようか。」heartzさんはいつもお腹が空いている。会うといつも最初は食事だ。

(まあいつも待ち合わせがそういう時間だからなんだけど。)

食べっぷりのいい人を見るのは好きだ。ばらしてしまえばheartzさんは「痩せの大食い」だ。

いつも錯覚する。こういう時間を過ごすと、自分は誰だったかを忘れてしまう。

だから黙ってしまう。私は「恋人」ではない。それがたまらなく切なくなる瞬間がある。

会えば会うほど錯覚していく。言い聞かせていないと言ってしまいそうになる。

私だけの人じゃない。だから黙ってしまう。出かかった言葉を飲み込んで。

「昨日何してたの?」「この間電話に出なかったのは何故?」私は恋人ではない。

この2〜3日、実は眠れなかった。正確にはなかなか眠りにつけなかった。

思い出すからだ。目を瞑ると自分が何をされたかを、自分がどう感じていたかを、

思い出すからだ。心で抑えていても、体は正直だ。心は隠せても、体の変化は隠せない。

隠させてくれない。無理に眠ろうとすると、夢を見る。そして結局目が覚めて、

今度はどうにも抑えられなくなる。heartzさんの事を思い出しただけで、

濡れるようになっている自分がいる。 思い出せない空白の時間がある。

髪を掴まれ、足の指を舐めさせられて、「こうされたかったんだろ?」もう我慢しなくていいんだ。

そうです。その通りです。でも声が出ない。足で顔を踏まれて、

もっと感じてもまだ声が出せない。叫びそうになる。

「気持ちいいって言え。気持ちいいですって言ってみろ。」

「気持いいです。」自分の声が遠くに聞こえた。そこからが覚えていない。

自分で何をしたのかどう感じたのか。何かを繰り返し言わされた事だけ覚えてるけれど、

何を言ったかがわからない。なのに体は何かを覚えているらしい。

自分の意識と違うところで、いきなり反応する。

思い出したくない私が覚えている私に負ける瞬間。もう受け入れた方がいい。

でないとまた同じ事の繰り返しだ。heartzさんは私のそういうところを理解してくれている。

少しづつ私を解放しようとしている。任せきっていていいのだろうかという疑問が常にある。

今はそれを考えてはいけない。わかっているけれど、やっぱり考えてしまう。

heartzさんは優しい。

その優しさが時々辛い。

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