涼子日記(NO.2)
2000.12.4
目的ははっきりしてたはずだった。
SEXをしてもいかない、気持ちが解放できない、
自分がM気がある事を自覚しているのだから、
その手段としてSMの世界に自分を置いてみよう。
それには私を理解してくれる人を探そう。
そして出会ったのがheartzさんだった。
heartzさんの言葉を信じて、わからないなりについて行こうと決めていたはずだった。
そのはずがどこでどう迷いだしたのか、この1週間私は完全に目的も自分自身すらも見失っていた。
進むべき行き先が見えなくなると、こうもおかしくなるものか。
『どうして好きになっていく気持ちをとめるんですか?』
初めて話したチャットの相手に、ガンガン自分の気持ちをぶつけまくって、
挙句にこう言われてもまだ否定しつづける。
「あなたにはわからない。好きになってはだめでしょう?」
『何故?いくらSとMでも相手を好きにならなくては、信頼関係は生まれませんよ。』
「向こうは私を好きでも何でもない。」
『あなたは何を望んでいるんですか?相手に好きになってもらうことですか?』
「違いますよ。そうじゃない。」
『じゃあなんですか?』
そこで言葉に詰まっても、まだわからない、わかろうとしない。
誰でもいいから答えをくれと思いながら、誰の言葉も聞けなくなっていた。
そう思ったらどんどん卑屈になっていった。
それでもheartzさんにはその気持ちをぶつけられなかった。
「今日こそメールを書こう。」
そう思って書き始めても言葉が浮んでこない。
馬鹿げた妄想でしかないのは自分が一番わかっていた。
電話を持って、途中まで番号を押す。
「でも誰かと話中だったら?」「今誰かと一緒にいたら?」
電話に出てくれなかった時の自分の落胆が想像できた。
その後に襲う被害妄想も想像がついた。
HPが更新されるのを見て、「ああ、今日は家にいる。」
それで安心する夜が続いた。
何も考えてなかった。
誰かと話していられればそれでいいと思った。
チャットにはまっていった。
パソコンを始めてから、チャットは救いだった。
顔も知らない、どこの誰かもわからない。
そんな文字だけの相手に丸裸の自分をぶつける。
男達は一生懸命聞いてくれる。
私とやりたいから。
もう誰でも良かった。
『今から会おうか。』
1時間後、身支度をして家を飛び出していた。
何も考えてなかった。
「私を放っておいたheartzさんが悪いんだ。」
怒っていたのかもしれない。
怒る事で自分の行動を正当化しようとしてたのかもしれない。
「黙って俺について来い。」
あのメールの文字が頭から離れなかった。
それでも私を止められない。
完全に制御不能になっていた。
眠れなかった。
何からどう片付けていったらいいかわからなくなっていた。
友人に話した。
「それができるんだったらなんでheartzさんにぶつけないのよ。」
それができない。できなくて苦しくてその結果の行動だったのだから。
最初から2度と会う気がなかった。
『アドレス教えて。』
そう言われて迷わず、使う目的もないのに取ってあったWebメールのアドレスを教えていた。
体は感じたけれど、心は何も感じなかった。
帰りの電車で思い出してみても顔も思い出せなかった。
別れた瞬間にその時間を切り取って、まるごとごみ箱に捨ててきたみたいだと思った。
後悔だけが残った。
帰るとその男からメールが届いていた。
後悔は筋違いな怒りに変わった。
「heartzさんが悪いんだ。こんなになるまで気がつかないheartzさんが悪いんだ。」
その男からのメールをそのままコピーして、メールで送った。
「もう放っておかれるのは嫌。」
2日ぶりのメールはいきなりそう書いて送った。
捨て身の行動だった。
「これで嫌われてもしょうがない。もう限界だ。」
結局私に残ったのは空っぽの快感と後悔だけだった。
M女性の言葉の中に、「ご主人様の愛を感じた。」と言うのが頻繁に出てくる。
叩かれて、縛られて、物のように扱われても、彼女達はそれを「与えられた愛だ。」とはっきり言っている。
私にはそれがわからなかった。
heartzさんに会った後は、その時間が楽しければ楽しいほど、感じれば感じるほど、心がささくれた。
泣きながら帰ったこともあったし、気持ちが滅入って仕方がなくなった事もあった。
「こんな事を望んでいたのか。」
その自問自答が繰り返されて、止まらなくなった。
heartzさんだから辛くなるんだ。
こんな想いをするのなら、heartzさんじゃなくてもいいはずだ。
私はそんなところに辿り着いた。
暴走を始めると私は前に進む事しかできなくなる。
それが間違っているとわかっていても走り出したら止められない。
間違っていたら間違った道をどんどん進んでいってしまう。
それを修正するにも、後戻りができない。
時間がかかっても回り道をして、戻っていかなければならない。
遠く離れてしまったところで、私は大声で叫んでいた。
「もうそこへは戻れない。」
でもheartzさんは待っていてくれた。
「俺とお前が離れていく場合は
お前が離れていくか、俺が死ぬかどっちかだ。
俺から離れていくことは絶対無い。」
それでもまだ信じないと騒ぐ私を、ただじっと待っていてくれた。
「お前はここに戻ってこれる。大丈夫。」
そう言われてる気がした。
無理に引っ張られて戻されても、私はまた迷ったはずだ。
あきれて離れてしまわれていたら、死ぬほど後悔したはずだ。
そうされてもおかしくなかった。
でもheartzさんは待っていてくれた。
「あほか。」と笑って・・・。
そして私はやっと進みだした。
縛られながら、戻ってきて良かったと思った。
みんなが言う「愛」が、少しわかった気がした。
それにしても、今までいかにheartzさんが私をゆっくり解放しようとしてくれていたかが良くわかった。
heartzさんを優しいと言った事は撤回しないけれど、本当にSだと言う事を改めて思い知らされてしまった。
(「あほか。」と言ってる声が聞こえてきそうだけど。)
私がやっと落ち着いたと思った途端、初めての「命令」を言い渡された。
メールは怖かったし、容赦なかった。
会うまで一体何をされるんだろうと思って怖かったし、おかげでこの何日かで2キロ痩せた。
(heartzさんには1週間の大騒ぎのせいだと言ったけれど、実は違った。)
おまけに初めて「ノーパンで来い。」と指定があって、それが届いた時しばらくメールを前に頭を抱えていた。
何日か経てばはぐらかせるかなと思ったけど、許してはもらえなかった。
今回ほど待ってる時間が長く感じた事はなかった。(笑)
ウォークマンは最大音量にして、持ってきていた本を読んで気を紛らわせようとした。
そうでもしていないと、みんなが私に注目している気がしたし、逃げ出したくなりそうだった。
実際途中あまりに鼓動が激しくなりすぎて、気分が悪くなってしまって、
何度も本で顔を覆いながら呼吸を整えたりしていたので、
私のそばにいた人たちはそんな私を見て、おかしな女だと思っていたかもしれない。
覚悟はして来たつもりだった。
怒っていないと言ってくれていたけれど、何かをされるのは大体想像がつく。
(実際は私の想像をかなり超えてたんだけど・・・。)
何をされても抵抗はしないつもりで来たけれど、やっぱり怖かった。
heartzさんは時間どおり現れた。
まずはほっとした。
何時間か待たされるかもしれない、それが「今日される事の予想リスト」の中にあったからだ。
heartzさんは喋らなかった。
いつもなら人ごみの中で私をかばうように歩いてくれるのに、それもしなかった。
「怒ってないって言ったじゃないか・・・。」
ため息が出た。
heartzさんと会う時はいつもホテルは決まっている。
何度か来たけれど、一度もスムーズにドアが開いた事は無かった。
コツがあるらしいのだ。
前回heartzさんは、まだそのコツを掴んでなかった。
今日もドアが開かない事を祈ったが、見事に1回で開いてしまった。
これにはほんとにビックリした。同時にがっかりしたのは言うまでもない。
もう逃げられないし、ほんとに覚悟を決めるしかなかった。
私は緊張すると笑う癖がある。でも笑えなかった。
いきなり口でさせられた。髪を掴まれた。
痛いと思った。
その痛さが快感だった。
「脱げ。全部脱げ。」
声が変わっている。
この低くなった声が好きだった。
heartzさんは立ったままで、私はひざまずいている。
この体勢が好きだった。
これだけで濡れてきてしまう自分が哀しくもあり、嬉しくもあった。
ひざまずいたまま、ベットに頭をつけさせられた。
腕を背中で組まされた。
「縛られたかったんだろ?縛ってやるよ。」
heartzさんに縛られるところは、今までに何度も想像していた。
SMと言えば知らない人でも「縛る」事は想像するはずだ。
それを今までしなかったのは、heartzさんがそれだけ私をゆっくり導いてくれていた事になる。
わかっていたのに・・・。
heartzさんの優しさと思いやりを裏切った事を改めて後悔した。
発見はもうひとつあった。
苛められて、いたぶられて、「ありがとうございます。」と思う感覚がやはり今までわからなかった。
勉強と同じでひとつわかりかけると、次から次へと目の前が広がって行くのに似ている。
鞭にしろ、蝋燭にしろ、浣腸や露出にしろ、あんちゃんじゃないけれど、
「そこに愛はあるのかい?」と、不思議でたまらなかったのだ。
SMになぜ信頼関係なんだ?と不思議でならなかった。
全ては同一線上にあったのかもしれないと思った。
それは異常な行為には違いないだろうけれど、なぜか不快感はなかった。
具体的な言葉ではまだ言えないし、ほとんど理解できていないのだけど、
自分の中の動物的な感覚の部分で反応してたと言うか、
頭で考えたら絶対にわからないだろうというところで、何かを感じた気がした。
かなり漠然とした言い方で、自分でも歯がゆいのだけど、
その瞬間何を考えていたかというと、
私は嬉しかった。ただ嬉しかった。
この感覚は自分が一番驚いた。
一瞬顔をそむけたのだけれど、それはほんの一瞬だった。
苛められていると感じたからではないし、快感を感じられる行為ではなかった。
なのに、そう感じてしまったのは不思議でならない。
実はheartzさんには見えてなかったと思うけど、この時私は泣いてしまったのだ。(嫌だったからではない。)
私の中にはまだ捨てきれないものがたくさんあって、
heartzさんをheartz様ともご主人様とも呼ばない事もそのひとつだ。
だから「奉仕」の精神はないし、「調教」されている自覚もない。
拒んでいるわけではなくて、いつか自然とそう言えて思えるようになるまで、
無理に言ったり、言い聞かせるのはやめようと思っている。
そんな私が自然に動いていた。
あまりに異常な行為で何かが弾けていたのかもしれないけれど、
あれは本当に不思議な感覚だったし、感動もしていた。
heartzさんは黙って抱きしめてくれたけれど、
「よく頑張ったね。」
と、言ってくれてる気がしたのだ。
私がもう少し素直だったら、大泣きしていただろうし、
頭の中でこだましていた「ごめんなさい。」のひと言も言えただろうと思うと、
少し自己嫌悪だ。でもわかってくれていただろうと思ってもいるんだけど。
ああ、これを信頼関係って言うのか。
う〜ん、やっぱり不思議だ・・・。
今回私は大騒ぎしている間に素敵な方との出会いがあった。
友人が体育会系の言葉で支えてくれたのは、いつも通りだったが(笑)
もうひとり暖かくそしてゆっくりと私が落ち着くまでずっと支えてくれた方がいる。
私は以前から一度ゆっくりお話ししたいと思っていた方で、
今回自分が切羽詰っていた事もあって、無理を承知で紹介して頂いた。
忙しい人だから、と念を押されていたにもかかわらず、
私は毎日のようにメールでバンバン自分の迷いを書いて送りつけてしまった。
切羽詰っていたのが伝わってしまったのかもしれないが、その方は毎回返事を下さった。
その方のひと言で私は正気を取り戻したと言ってもいい。
「信じられないのはheartzさんではなくてあなた自身かも知れませんね。」
その通りだと思った。
元々悩んでも持続しない方だったのに、今回は私の新記録だったかもしれないと思う。
入り込んだトンネルは長くて暗くて怖かった。
友人にしろ、heartzさんにしろ、そしてこの方にしろ、
良く最後まで私のひとり舞台に付き合ってくれたと思う。
最終的には自分なのだ。
誰かに何を言われても聞こうとしないくせに、誰かに答えを出してもらおうとしていた。
あなた自身だと言われて目が覚めた。
「私は大事にされてると思いますけど。」
最後にこう書いてあって、やっと反対側から考える事ができた。
自分がもし信じている人に「何を言われても信じられない。」と言われたらどう思うだろうか。
「だったらもう何も言わねーよ。勝手にしやがれ。」と、さっさと逆ギレしていただろう。(笑)
なのに私はheartzさんにこれを言いつづけていたのだった。
普段から自分に言い聞かせていた事ができていなかった。
『信じなければ信じてもらえない。見せなければ見せてもらえない。
自分が変わらなければ相手も変わらない。』
勝手に疑って、勝手に悩んで、勝手に落ち込んで、話しを聞こうとしなかった私を、
良く見捨てないでいてくれたと、3人に感謝してます。
ほんとにごめんなさい。そしてありがとう。
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